建物が契約内容に適合していない場合、施工会社に修補、報酬減額、損害賠償や契約解除を求められることがあります。ただし、請求ごとに要件が異なり、通知期限・消滅時効・契約上の責任期間にも注意が必要です。欠陥を見つけたら、記録を残し、早めに通知と専門家への相談を進めましょう。
01契約不適合責任とは
工務店や建設会社に住宅・建物の建築を依頼する契約は、通常、民法632条の請負契約です。完成して引き渡された建物が契約で求められた種類・品質・数量に適合しない場合、注文者は請負人に契約不適合責任を追及することを検討できます。
請負では、民法559条により契約の性質が許す範囲で売買の規定が準用され、修補などの履行の追完(562条)や報酬減額(563条)が問題になります。損害賠償は415条、解除は541条・542条などの要件によります。種類・品質に関する不適合には、請負固有の636条・637条も適用されます。
契約を結んだ日によって適用法が異なります
2020年4月1日施行の改正民法により、従来の「瑕疵担保責任」は契約不適合責任として整理されました。原則として同日以後に締結された契約には改正後の民法が、同日前に締結された契約には改正前の民法が適用されます。引渡日だけで判断せず、変更契約や経過措置も確認します。
なお、建売住宅や中古住宅を購入した場合は、売主に対する売買契約上の責任が中心になります。契約の相手方と取引の種類を最初に確認することが大切です。
根拠:民法559条・562条〜564条・632条・636条・637条/国土交通省「民法改正に関するパンフレット」5・8頁
02どのような欠陥が契約不適合になるのか
判断の中心は、実際の建物が契約で約束された内容を満たしているかです。契約書だけでなく、設計図、仕様書、見積書、打合せ記録、変更合意、広告や説明資料などを照らし合わせます。
- 雨漏り・防水不良:屋根、外壁、開口部などの施工が不十分で、契約上必要な防水性能を欠いている。
- 構造上の欠陥:基礎・柱・梁などに施工不良があり、必要な強度や安全性を欠いている。
- 仕様・性能の相違:約束した部材や設備が使われていない、合意した断熱・遮音性能などに達していない。
- 仕上げや寸法の不具合:床の傾斜、建具の不具合、図面と異なる寸法などが、合意した品質・施工精度に反している。
ただし、不具合があるだけで直ちに施工会社の責任が認められるわけではありません。通常の経年変化、使用・管理の状況、自然災害、許容される施工誤差などを区別し、原因を調査する必要があります。
建築基準法を満たせば責任を免れるのか
建築基準法などの法令は重要な判断材料ですが、契約上の品質が最低基準を上回る場合もあります。法令上の安全性に問題がなくても、重要な合意に反した施工であれば責任が問題になります。逆に、法令違反の有無だけで請求の可否や損害額が決まるものでもありません。
契約書等の記載が明確でないときは、建物の用途、契約の目的、説明内容、施工時の技術水準などから、当事者が合意した品質を合理的に解釈します。建築確認や完了検査を受けた事実だけで、契約上の不適合が否定されるわけではありません。
03施工会社に請求できること
| 請求 | 内容・主な要件 | 根拠 |
|---|---|---|
| 修補などの追完 | 不適合部分を直し、契約に適合する状態にすることを求めます。請負人に過失があることは原則として要件ではありません。 | 559条・562条 |
| 報酬の減額 | 原則として相当の期間を定めて追完を催告し、その期間内に追完されない場合に、不適合の程度に応じた減額を求めます。 | 559条・563条 |
| 損害賠償 | 修補費用や関連する損害の賠償を求めます。契約などに照らして請負人に帰責事由がない場合、415条による賠償責任は認められません。 | 415条・416条 |
| 契約の解除 | 催告しても履行されない場合や、履行不能などの法定事由がある場合に検討します。軽微な不履行による催告解除は認められません。 | 541条・542条・543条 |
修補の方法と報酬減額の注意点
建物の欠陥では、通常は修補を中心に追完の方法を検討します。注文者に不相当な負担を課さない場合、請負人が注文者の指定と異なる方法で追完できることがあります。また、履行不能の場合には追完を請求できません(民法412条の2)。
追完不能、請負人が追完を明確に拒絶した場合など、563条2項所定の場合には催告せず減額を求められることがあります。減額額は修補費用と当然に同額になるわけではなく、不適合の程度を踏まえて検討します。
修補費用以外の損害も請求できるのか
必要かつ相当な修補費用のほか、欠陥によって必要になった調査費、仮住まい費用、引越費用、家財の損害などが賠償の対象となることがあります。ただし、欠陥との因果関係、必要性、金額の相当性、特別損害の予見可能性などを個別に検討します。慰謝料や弁護士費用も当然に認められるものではありません。
修補に代わる損害賠償には415条2項の要件も問題になります。施工会社に修補の機会を与えず他社へ全面的にやり直しを依頼すると、費用の必要性や責任範囲を争われることがあります。緊急の場合を除き、先に通知・催告と証拠の保存を行うことが望まれます。同じ損害について修補と金銭賠償を重複して受けることはできません。
完成した建物でも解除できるのか
改正前民法635条ただし書にあった建物等の解除制限は削除されています。現行法では、建物でも解除の要件を満たせば解除を検討できます。催告解除には相当期間を定めた催告と期間内の不履行が必要で、その不履行が契約や取引上の社会通念に照らして軽微な場合は解除できません。全部の履行不能や全部の履行の明確な拒絶など、542条所定の事由があるときには無催告解除が問題になります。
解除に請負人の帰責事由は原則として不要ですが、注文者の責めに帰すべき事由による不履行の場合は解除できません(543条)。解除後の原状回復、建物・代金の扱い、損害賠償との関係は複雑なため、重大な欠陥では修補・建替費用の請求も含めて方針を検討します。
注文者が支給した材料・指示に原因がある場合
種類・品質の不適合が注文者の供した材料の性質や指図によって生じた場合、原則として636条により追完、報酬減額、損害賠償、解除はできません。ただし、請負人が材料や指図の不適当さを知りながら告げなかった場合は例外です。
04通知期限と消滅時効は別に確認する
種類・品質の不適合は、原則「知ってから1年以内」に通知
民法637条1項は、種類・品質の不適合について、注文者が不適合を知った時から1年以内にその旨を請負人に通知しないと、追完、報酬減額、損害賠償、解除ができなくなると定めています。この1年は「引渡しから1年」でも「1年以内に訴えを起こす期限」でもありません。数量の不適合は同条の対象とは区別して検討します。
引渡し時に請負人が不適合を知っていた場合、または重大な過失により知らなかった場合には、この通知期限の規定は適用されません(637条2項)。もっとも、例外の立証を見込んで通知を先延ばしにするのは避けましょう。
通知では、欠陥の箇所・症状・発見時期などを具体的に伝え、相手方への到達を確認できる記録を残します。内容証明郵便と配達証明、メールと返信記録などを事案に応じて用います。通知だけで十分か、修補の催告も必要かは、請求内容と契約により異なります。
通知しても、消滅時効は別に進みます
契約上の債権には、原則として民法166条1項の消滅時効も適用されます。権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年のいずれかが先に経過すると、時効が完成する可能性があります。起算点は権利の内容と事実関係によって確認が必要です。
欠陥の通知だけで、時効が止まるとは限りません
不適合を通知することと、時効の完成猶予・更新を生じさせることは別問題です。履行の催告に当たる場合でも完成猶予は原則6か月で、催告の繰返しによって延ばすことはできません(150条)。期限が近い場合は、裁判上の請求、債務の承認などの対応を検討します。
契約書・約款に独自の通知期間や責任期間が定められている場合もあります。特約の有効性、消費者契約法等による制限、品確法の強行規定との関係を確認します。「施工会社と話合い中だから期限は問題ない」と考えないことが大切です。
05新築住宅の重要部分には10年の責任
住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)94条は、住宅を新築する建設工事の請負人に、引渡しから10年間、一定の瑕疵について担保責任を負わせています。
- 構造耐力上主要な部分:基礎、柱、梁など、政令で定められた部分。
- 雨水の浸入を防止する部分:屋根、外壁、開口部など、政令で定められた部分。
対象は、これらの部分の瑕疵のうち、構造耐力または雨水の浸入に影響するものです。すべての設備故障、内装の傷、施工不良に一律10年の責任が適用されるわけではありません。法の「新築住宅」は、新たに建設され、人の居住の用に供したことがなく、建設工事の完了から1年を経過していない住宅をいいます(2条2項)。事務所・店舗など住宅以外の建物については、適用対象を確認する必要があります。
この責任を注文者に不利にする特約は無効です(94条2項)。ただし、10年の責任期間と、不適合を知ってからの通知期限や消滅時効は同じ制度ではありません。94条3項により637条が読み替えて適用されるため、10年以内なら何もしなくてよいという意味ではありません。
住宅瑕疵担保責任保険や保証の利用を検討する場合は、保険付保証明書、保証書、保険法人・保証主体、対象範囲、連絡期限を確認します。施工会社が倒産している場合でも、保険等を通じて救済される可能性がありますが、利用条件は個別に異なります。
根拠:品確法2条・94条・96条・97条/同法施行令5条/国土交通省「民法改正に伴う住宅品質確保法・住宅瑕疵担保履行法の改正の概要」
06住宅・建物の欠陥に関する最高裁判例
次の判例は、いずれも改正前民法下の「瑕疵」に関する判断です。現行法の責任を検討する際にも参考になりますが、旧法の条文をそのまま現行法として適用することはできません。
重大な瑕疵があり、建替えを要する場合
建物に重大な瑕疵があるため建て替えざるを得ない場合、注文者は請負人に対し、建替えに要する費用相当額の損害賠償を求められると判断しました。
旧法では建物等の瑕疵を理由とする解除が制限されていましたが、この判決は、建替費用の賠償を認めてもその制限の趣旨に反しないとしました。最高裁の委員会答申では、建物全体の強度や安全性に著しく欠け、地震・台風等を契機に倒壊しかねない事案として紹介されています。
実務上のポイント:建替費用の請求には、欠陥の重大性だけでなく、修補で対応できず建替えが必要であること、工法・費用の相当性を建築専門家の調査等で裏付けることが重要です。欠陥があれば常に建替費用全額を請求できるわけではありません。
安全性に問題がなくても、重要な約定に反した施工は瑕疵となり得る
耐震性を高めるため、主柱に特に太い鉄骨を使うことが契約の重要な内容となっていたのに、注文者に無断で約定と異なる細い鉄骨を使った事案です。最高裁は、構造計算上の安全性に問題がなくても、当該工事には瑕疵があると判断しました。
実務上のポイント:契約で何を約束したかが重要です。図面や仕様書に加え、性能についての説明や打合せ記録、変更への同意の有無を保存しておくことが、契約内容の立証につながります。
判例の確認資料:最高裁判所「建築関係訴訟委員会答申」第2・1(2)ア・イ(両判決の事件番号・判断内容を紹介)
07欠陥を見つけたときの請求の進め方
- 契約と日付を確認する。
契約締結日、引渡日、欠陥を知った日、施工会社への連絡日を時系列で整理し、契約書・約款の期限を確認します。 - 現状の証拠を保存する。
写真・動画に撮影日、場所、症状を記録します。雨漏りなら天候と発生状況、傾斜なら測定位置・方法も残します。契約書、図面、仕様書、変更記録、検査記録、メール、請求書等をまとめます。 - 施工会社に具体的な通知をする。
欠陥の箇所と症状を伝え、調査・修補の対応を求めます。口頭だけで終わらせず、通知の内容と到達の証拠を残します。必要に応じて相当の期限を定めて修補を催告します。 - 建築専門家の調査を受ける。
原因、契約との相違、修補方法、必要費用を調べます。構造や防水の問題では、弁護士と建築士等が連携して法的・技術的な争点を整理します。 - 請求内容を決め、交渉する。
修補、報酬減額、損害賠償、解除を比較します。合意する場合は、修補範囲、方法、期限、確認方法、費用、再発時の扱いを明記し、過度な権利放棄がないか確認します。 - 解決しなければ手続を検討する。
民事調停や訴訟などを検討します。住宅紛争処理制度を利用できるかは、建設住宅性能評価書の有無、保険の付保状況などで異なるため、対象要件を確認します。現状が失われるおそれがあるときは証拠保全の検討も必要です。
安全の確保と証拠の保存を両立する
倒壊・部材落下などのおそれがある場合は、安全確保を優先してください。応急措置が必要なときも、可能な範囲で施工前後の写真、作業内容、撤去部材、見積書・領収書を残します。欠陥の原因が確認できないまま全面的に撤去すると、後の立証が難しくなることがあります。
相談時に用意すると役立つ資料
- 工事請負契約書・約款、設計図、仕様書、見積書、変更合意書
- 欠陥箇所の写真・動画、調査報告書、修補見積書
- 施工会社とのメール・書面、補修履歴、打合せ記録
- 引渡関係書類、住宅性能評価書、保険付保証明書、保証書
- 契約・引渡し・発見・連絡の経過をまとめたメモ
08よくあるご質問
引渡し時に気付かなかった欠陥でも請求できますか。
請求できる可能性があります。現行法の契約不適合責任では「隠れた欠陥」であることを一律の要件とするのではなく、契約内容への適合性が問題になります。ただし、契約内容、引渡し後の原因、通知期限・時効などを確認する必要があります。
「保証期間が終わった」と言われたら、あきらめるしかありませんか。
保証書上の保証と法律上の責任は必ずしも一致しません。契約上の責任制限の内容と有効性、品確法の対象、不適合を通知した時期、時効などを確認します。保証期間の終了だけで結論は出せません。
施工会社への残代金の支払を止めてもよいですか。
欠陥があっても、残代金全額の支払を当然に拒めるわけではありません。同時履行の抗弁、損害賠償債権との相殺、支払拒絶の範囲などを検討する必要があります。支払を止める前に、契約と欠陥の程度を専門家に確認しましょう。
施工会社が「直した」と言っても不具合が続く場合はどうすればよいですか。
補修内容と再発状況を記録し、原因の再調査と適切な修補を求めます。過去の補修合意や権利放棄条項、通知・時効の扱いも確認してください。表面的な処置で原因が残っている場合、第三者の建築専門家による確認が役立ちます。
この問題でお困りの方へ
ご自身の場合にどう対応すればよいか、初回無料相談で一緒に整理します。詳しい経緯がまとまっていなくても、ご相談いただけます。
初回無料相談を予約する相談だけでも大丈夫です。夜間・休日の日時は、予約状況に応じて調整します。
住宅の欠陥は、早めに法律相談を
「施工会社が対応してくれない」「修補か建替えか判断できない」「請求期限が心配」。契約と資料をもとに、責任の範囲や請求方法を弁護士に相談しましょう。
住宅・建築トラブルの相談を予約するご相談の際は、契約書・図面・写真と、引渡日や欠陥を知った日が分かる資料をご用意ください。相談の受付方法・費用は相談窓口でご確認ください。
09主な条文・確認資料
- 民法(e-Gov法令検索):追完・減額、損害賠償、解除、通知期限、消滅時効の各規定。
- 住宅の品質確保の促進等に関する法律(e-Gov法令検索):新築住宅の定義と94条の担保責任。
- 住宅の品質確保の促進等に関する法律施行令(e-Gov法令検索):5条の対象部分。
- 法務省「民法の一部を改正する法律(債権法改正)について」:施行日、改正の概要・経過措置。
- 国土交通省「民法改正に関するパンフレット」:請負人の担保責任、時効、施行前後の取扱い。
- 国土交通省「民法改正に伴う住宅品質確保法・住宅瑕疵担保履行法の改正の概要」
- 最高裁判所「建築関係訴訟委員会答申」:平成14年9月24日・平成15年10月10日の最高裁判決の紹介。
本記事は、注文住宅・建物の欠陥に関する一般的な法律情報を提供するものです。個別の請求の可否は、契約内容、適用法、欠陥の原因・程度、証拠、期間制限等によって異なります。記事内容は確認日現在の資料に基づき、条文と判例の要旨を平易にまとめています。
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